第37回

世田谷区で成功する!
賃貸住宅の2022年最新トレンド

コロナ拡大による在宅勤務の増加で、住宅に求める条件に変化がでてきました。株式会社リクルート住まいカンパニーの2020年5月の調査*では、1位に「仕事専用スペースが欲しくなった」、2位に「宅配・置配ボックスを設置したくなった」、そして4位に、「遮音性に優れた住宅に住みたくなった」という結果です。遮音性については、オンライン会議や顧客への電話などで、今まで以上に自分の声や他人の音に対して敏感になったためです。このように、不動産も自然災害などに大きく影響を受ける時代です。
土地を所有していれば安心、建物を建てて貸せれば大丈夫、という時代ははるか昔のこと。今回は、ニーズの変化に合わせて成功する賃貸住宅の最新トレンドについてご紹介します。

*[コロナ禍を受けた『住宅購入・建築検討者』調査(首都圏)]株式会社リクルート住まいカンパニー

ここがポイント
  • 単身者向けの賃貸住宅が多く、築5年以内は1Rが減り1Kなど若干広い部屋が増えている
  • 企画のポイントは、ロフトや半透明の扉を使い「限られた空間を明るく広く見せる」こと
  • 高齢者の賃貸需要も高まる。孤独死対策で国交省から事故物件告知のガイドラインが発表

1.世田谷区の最新賃貸トレンド

 賃貸住宅のwebサイトへ掲載されていた、世田谷区で募集中の賃貸住宅を分類してみました(図表1)。

(図表1)2021年11月22日時点で賃貸住宅のwebサイトへ掲載されていた、世田谷区で募集中の賃貸住宅を間取りで分類した。

表1を見ると、圧倒的に単身者向け賃貸住宅の多いことが分かります。単身者向けが多い理由として、賃料の坪単価がファミリータイプに比べて高く設定できること。また、一戸建てには十分な広さでも、共同住宅にはやや狭い土地が多く、ファミリータイプにすると総戸数が少なく、空室がひとつでも発生した時のリスクが大きくなるためです。
その中でも、築5年以内の賃貸ではワンルームの割合が減り、1K・1DK・1LDKの部屋が増えています。それは、単身者向けの賃貸で競争が激化するなか、ライバルより若干でも広く・ゆとりのある部屋へせざるを得なかったことや、浴槽とトイレと洗面が一緒になった3点ユニットが、入居者に敬遠されるようになったため、やむを得ず広くせざるを得なかったことが原因です。

 次に、2016年以降のマンションとアパートの成約賃料の㎡単価をグラフにしました(図表2)。不動産賃料は、コロナ禍にもかかわらず上昇しています。

世田谷区と東京23区の成約賃料㎡単価の推移

(図表2)公益社団法人東日本不動産流通機構の首都圏賃貸居住用物件取引動向で発表された2016年以降の四半期データを、年平均に換算したグラフ。(2021年は10-12月を除いた平均値)

平常時の経済活動に投資されるべき金銭が、株式や収益不動産に向けられたことが理由として考えられます。また、新築の賃貸住宅も建設費が高騰しているため、総事業費が嵩んでいます。
こうしたことを背景に、賃貸住宅も収益確保のため、コロナ禍でも変わらずに賃料が高くなる結果となりました。

2.賃貸住宅に必要なのは企画力

 収益不動産にお金をかける人が増えライバルが多い中、賃貸住宅をこれから建てる人は、どのような点に注目して計画すればいいのでしょうか。

まず、ほとんどの入居者はwebサイトで住みたい物件を絞り込んでしまいます。これから建てる賃貸住宅も、webサイトで選ばれる存在でなければなりません。そして、オーナーには長期の借入金返済があります。いまだけでなく、将来も選ばれる物件でなければなりません。

そのポイントは、「限られた空間を明るく広く見せる」ことです。
拍子抜けするほど当たり前のことですが、実際には、平面図を見ても立体的なイメージがわかない方も多く、外観のパース(立体図)など華やかな資料に目が向いてしまうことや、建設費が気になってしまうなどの理由で、部屋ごとの空間はあまり注視されずに計画が進んでしまうことも多いのです。

では、その「限られた空間を明るく広く見せる」ための具体的なポイントをご紹介しましょう。

①玄関を広めにとり、明るい照明を設置し、収納スペースを設ける。
人も身だしなみなど第一印象が大切ですが、部屋の第一印象は玄関です。募集面積が狭い賃貸でも、扉を開けた瞬間に「あれっ、思ったより広いな」と思ってもらえたら、契約に近づきます。また、玄関の収納を工夫することも重要です。頻繁には使わないものを片付けておくのに便利ですし、入居者にアウトドアの趣味があれば、道具を帰宅してすぐにしまえて、汚れたものを室内に持ち込まなくて済むため、使い勝手がとても良い収納です。そんな収納にまで気を配れる賃貸は、入居者の印象も良いこと間違いありません。

②ロフトや床下収納など、募集面積以上の空間でお得感を。
ひとつの敷地に建設できる床面積は、法律で制限されています。しかし、この制限の対象外になる床面積があります。それは、ベランダやバルコニー、玄関ポーチ、小屋裏物置(ロフトや床下収納)、地下室、建物内の車庫などです。ロフトや床下収納は、入居者が使える空間を増やすのにとても有効です。
オーナー側の注意点は建設費が嵩むこと、そして小屋裏物置には細かな規定が多いので、設計時に行政確認が必要なことです(図表3)。

(図表3)ロフトや床下収納のイメージ(世田谷区ホームページ 建築基準法_雑則規定_面積、高さ及び階数の算定_小屋裏物置等の取扱いより抜粋)
※関連する規定がたくさんありますので、詳しくは世田谷区サイトから資料をご覧になるか、世田谷区へご確認ください。
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/sumai/002/002/003/d00017927_d/fil/17927_6.pdf

③半透明の大きな扉を使って光を入れながら広くみせる工夫。
例えば、居室にベランダはあるけれどダイニングに窓がない場合に、間仕切りを半透明の大きな扉にすれば、ベランダからの採光をダイニングへ導くことができます。ワンルームでも壁面のクローゼットの扉にこれを使えば、居室の向こうにさらに、部屋があるように感じさせる効果もあります(写真1)。

(写真1)壁面のクローゼットの扉を半透明の大きな扉にした部屋。

コロナ禍で大きく変わったライフスタイルによって、賃貸住宅も今まで以上に各部屋の快適性が重視されるようになるでしょう。流行に左右されず、幅広い層に喜ばれる賃貸は、長期間に安定した賃貸経営にとても重要です。

「限られた空間を明るく広く見せる」方法は他にもたくさんありますので、ハウスメーカーの担当者に相談されるとよいでしょう。

3.今後の賃貸住宅の需要はどうなる?

 ご存知の通り、日本は世界で最も高齢化率の高い国です(図表4)。今後もこの傾向は続きますので、高齢者向けの賃貸住宅の需要は高まります。ただ、オーナー側からすると高齢者の新規入居は敬遠されがちです。

なぜ敬遠されるかというと、賃料滞納・生存確認・病気や死亡への対処・残置物処分・室内死亡後の新規募集、こうした心配があるからです。

(図表4)世界の高齢化率の推移(出典:内閣府/令和2年度高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況)

 しかし、これらの心配に対するサービスが充実してきています。
・賃料滞納については、民法改正に伴う個人の連帯保証人への極度額の設定が義務化されたため、連帯保証人の代わりに家賃保証会社の利用を前提とした賃貸借契約が増えています。

・生存確認、病気や死亡への対処は、民間企業を中心に高齢者の見守りサービスが提供されるようになりました。コールセンターから日に一度、高齢者へ電話をして安否を確認し、親族や依頼者へ報告するサービスや、電話の応答がない場合や、異変があった場合に駆けつけるサービス、緊急通報をするサービスなどがあります。

・孤独死後の残置物の処分については、家賃保証や借家人賠償保険にその処分費用を補償する付帯特約や、先ほどの見守りサービスに追加できる契約があります。

・室内での孤独死後の新規募集時に、いわゆる事故物件として告知することへの心配があります。この告知の基準が曖昧であったため、募集する不動産業者が独自に判断をしていました。2021年10月8日国土交通省から「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が発表されました(図表5)。高齢者が室内で自然死した、日常生活の中での不慮の死を遂げたなど、告知しなくてよいケースが明確化されました。

(図表5)ガイドラインのポイント(出典:国土交通省/宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン) https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo16_hh_000001_00029.html

賃貸住宅を建てる際に最も大切なことは、長期に安定した経営ができることです。オーナーには計画段階で判断することが多く悩みは尽きません。しかし、ハウスメーカーには蓄積されたたくさんのノウハウがあります。悩んだら担当者に相談して、納得するまで教えてもらう。まずはそこからはじめてみてはいかがでしょうか。

※ 2021年11月26日(金)時点の情報に基づいています。

執筆・情報提供:安食 正秀 (宅地建物取引主任者 相続アドバイザー協議会R認定会員 上級アドバイザー)

1963年東京生まれ、立教大学経済学部卒。
2006年7月、株式会社アセット・アドバイザーを設立。財産を次世代に承継することを最優先に、顧客の不動産の全体像を把握し、様々な視点から不動産の相続対策の立案、問題解決および実務支援を行う。夕刊フジで「激変!相続税に備える」を連載。2016年1月千葉テレビに出演。首都圏を中心にセミナーや執筆など人気講師として活躍中。

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