相続対策と不動産活用
第1回
「税理士が街を歩いていて思うこと」
~連載に先立って~


駅へ向かう道沿いに、かれこれ10年、いや15年以上空き家になっている家があります。誰も住んでいないのは明らかですが、1年に1~2度は植木屋さんが入って庭木の手入れをしているので、所有者がいてそれなりに管理がされているのは分かります。
植木屋さんの費用もそうですが、それ以外にも固定資産税など諸々コストがかかっているはずです。「使わないのなら早めに売却した方が良いだろうに、なんで売却しないんだろう?」、そんな風にこの家の前を通る度に背後にある事情を自分勝手にあれこれと空想をします。「そこに空き家がある」ということだけでは終わらず…一種の職業病かもしれませんね。
ある時は、歩きながらL型側溝の数を「1,2,3,4…」と数えて、(1つが60cmですので)15個あったら前面が9メートル、奥行は「前面と比べて少し長そうだから12~13メートルとして」、「9m×12~13mで108~117㎡、大体110㎡くらいかなぁ」なんて、目測で測量をしてみたり(グーグルマップを使えばもっと正確に調べられるのですが、そこまでするとやり過ぎのような気がしてしまいますので、空想にはこのくらいが適当なのです。)、路線価をかけて相続税の評価をしてみたり、近くの売地の坪単価をかけて売却想定額を算出してみたり、そこから発生するであろう税金を計算してみたり、駅までの時間つぶしにはちょうど良い頭の体操の時間です。
また別の日には、売却しないのにはそれなりの事情があるのであろうから、例えば家族構成が影響しているのかもしれないなどと、売らない(又は、売れないのかもしれませんが)理由を家族構成から推測してみたりもします。例えば、所有者は配偶者(ここでは妻とします)、(元々の所有者である)夫は既に他界、その時の相続でこの土地と建物を相続した。子供は3人で皆さん独立してそれぞれ住まいを持っている、等々…。こんな感じです。
この空想の大事な点は、実はこの空想には税務に係る内容がたくさん含まれているということです。先ほどの家族構成でこの不動産について具体的に税制に当てはめてみますと、確かに売却するよりも持っていた方が得ではないだろうか、ということが分かります。
いくつか挙げてみましょう。
- ①生存中に妻が売却すると、その時点で譲渡所得に課税される。つまり妻は所得税と住民税を納付する必要がある。
- ②売却後、手元に残る現金を相続する場合と不動産のままで相続した場合では、通常は路線価の方が売却価格よりも低いので、相続税上の評価は現金の方が高くなる可能性が高いです。
- ③妻がこの家に住まなくなってからかなり時間が経過しているので、居住用の3,000万円控除が使えない可能性が高い。つまり、急いで売却する必要がない。
- ④逆に、相続後の売却であれば空き家特例が使えるかもしれないし、複数人で相続すると控除額がその分多く使えます。相続人3人でこの不動産を取得し空き家特例を使うとすると、控除額は1人2,000万円ですので、3人分合計で6,000万円の控除が受けられます。
このように、他人の空き家を眺めていていろいろ空想にふけるにしても税金の制度を入れ込むと、話が膨らんでなかなか面白いものになってきます。ただし、空想で他人の家のことを云々しても自分の得にはなりません。是非自分の家庭や家族に活かしていきたいものです。そんなことから、この度このコラムでは皆様のお役にたつ不動産と相続に関連する税金の制度を連載でお話する運びとなりました。
相続の制度、税金の制度を理解した上で正しい対策を立て、実行することが重要です。私自身、住宅展示場や区役所などで一般の方からの相続に関する相談をたくさん受けてきました。相談者のご希望に沿う方法を考えアドバイスをさせて頂いていますが、その相談者の方々が最終的にその対策案を実行したのかどうかまでは、うかがい知ることができません。ここでお話する対策は実行してはじめて効果が得られるのですから、もちろん「実行する」ことが重要です。
「実行する」ことが重要とはいっても、その家族にとって最適な効果がある対策を取らなければ意味がないどころか逆効果になるかもしれません。多くの税制は事前に申請又は届出をする、特例などの適用には要件を満たしておく、など事前の準備が不可欠な制度が多くあります。そのためには、相続の制度、税金の制度を十分に理解した上で、我が家にとって最適な対策を立て、実行し、場合によっては、見直しを行い、まさしくビジネスの世界で行われるPDCA(plan-do-check-act)的に言うと、これに「理解(understand)」を加えて、UP-UP-DCAといったところでしょうか。PDCAのようにサイクル(繰り返し)にはならないと思いますが、とにかく実行あるのみです。
このUP-UP-DCAの最初の「U」のお役に立てるよう、この連載では不動産を活用した節税策を中心に解説を進めていきたいと思います。次回、7月に「相続税」について、申告の現状や計算方法について掲載予定ですので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
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