相続対策と不動産活用
第4回
「タワマン節税と総則6項」
~やり過ぎは当局から指摘されます~


- INDEX
【1】はじめに
前回の第3回コラムでは、不動産を活用すると相続税が軽減できる仕組みについてご説明しました。今回の第4回では、いき過ぎた相続税対策が当局から指摘されたケースを取り上げます。裁判例からどのような点が指摘されるポイントであったのかを解説します。
【2】総則6項とは
前回ご説明した通り、相続税の計算における不動産の評価は原則、財産評価基本通達に沿って行います。土地は路線価(倍率地域では倍率)、建物は固定資産税評価額で評価します。ところが、この財産評価基本通達に沿って評価したにもかかわらず、「その評価額ではダメです」という指摘を受けることがあります。その根拠となるのが「総則6項」です。
財産評価基本通達第1章(総則)の第6項(この通達の定めにより難い場合の評価)に、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」という規定があり、この規定を「総則6項」と呼んでいます。
実はこの総則6項も財産評価基本通達の規定の1つですから、財産評価基本通達の範囲内ということになりますが、財産評価基本通達に規定されている土地や建物の評価方法(路線価や固定資産税評価額)に従わず、国税庁長官の指示を受けて評価をする、ということになります。
【3】総則6項の適用件数

※事務年度は、各年7月から翌年6月までをいいます。例えば令和5年度の事務年度はR5年7月~R6年6月末となります。
平成25年事務年度から令和3年事務年度までは合計で9件だったものが、令和4年事務年度 6件、令和5年事務年度 11件と増加しています。これは令和4年7月1日付で国税局等に示された事務運営指針(総則6項の適用基準や運営体制)の影響と思われます。
【4】事務運営指針で示された3つの適用基準
評価通達の定めによって評価することが著しく不適当であるかどうか、つまり総則6項の適用対象となるかどうかについては、次の3つの基準を総合的に勘案して判断するとのことです。
- 基準① 評価通達に定められた評価方法以外に、他の合理的な評価方法が存在するか。
- 基準② 評価通達に定められた評価方法による評価額と他の合理的な評価方法による評価額との間に著しいかい離が存在するか。
- 基準③ 課税価格に算入される財産の価額が、客観的交換価値としての時価を上回らないとしても、評価通達の定めによって評価した価額と異なる価額とすることについて合理的な理由があるか。
【5】2022年4月19日の最高裁判決の事件の内容
総則6項が一般に知られるようになったのは、2022年4月19日の最高裁判決がきっかけではないでしょうか。事件の内容を簡単に述べますと、相続税対策を行う前に、相続税の課税財産で6億円ほどの財産を持っていた高齢の男性(大正7年生)が8億3,700万円と5億5,000万円(合計13憶8,700万円)で2棟のビルを購入しました。この購入について10億800万円の借入をしています。
数年後この高齢の男性が死去し相続が発生したわけですが、その際のこの2棟のビルの財産評価基本通達による相続税評価額は3億3,370万円でした。そうすると相続税がどうなるかと言いますと、
元々持っていた財産+この2つのビルの評価額(3億3,370万円)
-借入金(10憶800万円)・・・=2,826万円<基礎控除額
となり、対策前は2億円ほどの相続税がかかるとされていたものが、実際の相続では相続税が0円となったのです。
2億円とされていた相続税が0円になったのですから、相続税対策は功を奏したということになります。購入した2棟のビルの評価は財産評価基本通達に沿って行ったわけですから何らやましいことは無いであろう思われます。
しかし、税務署は「総則6項」を適用して不動産鑑定士による不動産鑑定評価額で評価することが妥当であるとして、約2億円の相続税及び過少申告加算税の支払いを求めてきたのです。
納税者側は、財産評価基本通達に沿って評価をしたのであるから何ら問題とはならないはずであるとの主張をしました。相続税の評価をする上で普通に採用されている財産評価基本通達に沿って評価をして何が問題なのか、というのはある意味当然の主張ということもできるでしょう。
【6】事件の概要

【7】最高裁判所が税務署を支持した理由
この裁判は国側が勝訴したのですが、裁判所が税務署側の主張を支持した理由として以下のことが挙げられます。
- ①相続税の負担が著しく軽減されている
- ②近い将来相続が発生することを予見できた
- ③相続税の負担を免れることを期待し、あえて借入・不動産購入を実行した
- ④このような借入・不動産購入をできない他の納税者との著しい不均衡がある
【8】最高裁判決の整理
1審と2審では「通達での評価額と鑑定による評価額とにかい離」があることを問題としていました(通達評価額は鑑定評価額の約1/4)。一方、最高裁ではこの裁判の判決文の中で「本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの、このことをもって上記事情(租税負担の公平に反するべき事情)があるということはできない」という部分でしょう。つまり、通達評価額と鑑定評価額に著しいかい離があることだけをもってして不適当である、としたわけではないということです。
2つのビルを購入した目的は相続税を低くしようとしたことにあったのは明らかです。この高齢の男性が2つのビルを購入した時は既に91歳(94歳で死去)になっていましたし、融資をした金融機関の稟議書に「相続対策のため」としっかり記載されていました。普通に考えて札幌の91歳の方が10億円を借りて東京都杉並区と神奈川県川崎市に13憶の物件を購入することはしないでしょう。また、このような対策は一般の方が行えることではなく、ごくごく一部の者のみが行えることである、という税の平等の観点からして著しく不均衡であるという点も判決のポイントになったと考えられます。
【9】タワマンの評価方法の改正
マンションについては市場での売買価格と財産評価基本通達による相続税評価額とのかい離が大きくなるケースが見られています。実際にマンションの相続税評価額が個別に判断されることもあり(「評価通達6項」の適用)、そうなりますと、納税者の予見可能性を確保するということにも支障が出てきます。
そこで、平成6年1月1日以降の相続について、マンションの評価方法が改正されました。マンションの築年数、総階数、所在する階、敷地権持分の狭小度から算出される評価乖離率を財産評価基本通達での評価額に乗じる方法になります。
現行の財産評価基本通達による相続税評価額×評価乖離率(※)×0.6
重回帰式による理論的な市場価格
【10】まとめ
今回のコラムでは土地と建物に対して適用されたケースを紹介しました。総則6項はこのような不動産に対してだけでなく非上場株式の評価に対しての適用事例もあります。裁判へ進む場合も多く、既に判決が出た事件、係争中の事件もあります。
この裁判では、不動産を所有することがよろしくないといっているわけでもなく、財産評価基本通達の評価方法を否定しているものでもありません。いき過ぎた節税策、その節税策がごく一部の特定の人しかできないような特殊な行為であったことが問題であり、不平等であることにより指摘されたことと思われます。
次回は、小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減など相続税の特例について解説します。
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