第16回

世田谷で考える賃貸経営。求められる賃貸住宅ニーズ1

持っている土地を有効活用したい方や、相続税対策として賃貸や併用住宅などを建てたい方が増えている一方で、リスクとなる空室の増加や、長期的な賃貸経営に対する不安をお持ちの方も多いでしょう。そこで今回のコラムでは、世田谷区で賃貸経営をはじめる方が失敗しないためにおさえておきたい情報として、①地域の市場動向 ②地域の賃貸属性、そして長期的に満足度の高い賃貸住宅にするための③賃貸ニーズについて、3つの情報を紹介します。

ここがポイント
  • 世田谷区内で成約した賃貸物件の2018年1-3月の平均賃料は9,769円/坪、前年同期比で1.4%上昇
  • 次に引っ越す際に欲しい設備は、上位から「エアコン」「独立洗面台」「TVモニター付インターフォン」
  • 入居者の満足度の高い設備は、「24時間出せるゴミ置場」「遮音性能の高い窓」「宅配ボックス」
  • 賃貸住宅検索の際に、最もニーズの高い動画は「部屋の中を実際に移動し、動線がわかる動画」

1.世田谷区内の平均賃料は、前年同期比で1.4%上昇

2018年関東の住みたい自治体ランキングでは、1位の港区に次いで人気がある世田谷区。世田谷区に住みたいとアンケートに答えた年齢層の割合は、20代が27.9%、30代が30.9%、40代が41.1%(※1)でした。社会経験が重なるにつれて住みたいと考える方が多いようです。また、地域の市場動向からみると、世田谷区内で成約があった賃貸物件の賃料を3カ月ごとの平均値にしたデータ(図表①/※2)をみると賃料が上がっていることがわかります。賃料の坪単価は、2016年に比べて2017年は下落傾向にありましたが、2018年1-3月の平均値は9,769円/坪で、前年の同時期(9,633円/坪)に比べて1.4%上昇しています。直近の2018年4-6月が9,607円/坪と下落していますが、1-3月の賃貸繁忙期に入居の無かった案件が、賃料を下げて成約を急いだことが理由として考えられます。毎年この傾向がある中で、2018年4-6月も前年同時期(9,521円/坪)に比べて0.9%上昇していますので、2017年に比べて2018年は持ち直していると言えるでしょう。反面、契約件数を見ると、2018年1-3月の平均値は前年の同時期に比べて12.6%下落しています。(図表②/※2)世田谷区の人口は2018年4月1日現在903,613人(※3)と、対前年同月比でも0.8%増加していますので、人口減少が原因ではありませんが、成約件数が減少傾向にあることは、賃貸経営をするうえで、心に留めておかなければなりません。しかしながら、世田谷区は人気の私鉄が交差し、公共施設、病院が充実している、長期的に人気が高いエリアであることから、土地活用を考えている方は一部を賃貸住宅にするなど、賃貸経営の可能性を考えてみると良いでしょう。

【参考】

図表① :世田谷区で成約した賃料の平均坪単価

出典:公益財団東日本不動産流通機構の首都圏賃貸取引動向による

図表② :世田谷区の賃貸物件の成約件数

出典:公益財団東日本不動産流通機構の首都圏賃貸取引動向による

2.満足度の高い設備は「24時間出せるゴミ置場」「遮音性能の高い窓」「宅配ボックス」

賃貸経営をするうえで入居者のニーズは重要な情報です。株式会社リクルート住まいカンパニーの2017年度賃貸契約者動向調査(首都圏)によると、次に引っ越す際に欲しい設備は、上位から「エアコン」「独立洗面台」「TVモニター付きインターフォン」と続きました。(図表③)また、賃料が上がっても欲しい設備の1位は「追い炊き機能付きの風呂」、その家賃上昇許容額の平均は1,400円でした。(図表④)満足度の高い設備は、「24時間出せるゴミ置場」「遮音性能の高い窓」「宅配ボックス」と続きました。(図表⑤)こうしたデータから見ると、忙しい世帯が、ゴミ出しや宅配の受け取りに時間を束縛されたくない傾向や、水道光熱費への出費を抑えたい傾向が見られました。世田谷区に住みたいと答えた世帯のライフステージの構成をみると、1位が「夫婦+子ども世帯(片働き)」の18.7%、2位が同率で「シングル世帯の男性」「シングル世帯の女性」の18.1%、4位が「夫婦+子ども世帯(共働き)」の15.4%でした。(※1)こうした世帯構成から見ても、時間を束縛されたくない、水道光熱費への出費を抑えたいというニーズは高いと思われます。

図表③ :次に引っ越す際に欲しい設備

図表④ :賃料が上がっても欲しい設備

図表⑤ :満足度の高い設備

出典: 株式会社リクルート住まいカンパニーの2017年度 賃貸契約者動向調査(首都圏)による
※ アンケートの集計方法などは下記のページをご参照ください。
https://www.recruit-sumai.co.jp/data/upload/chintai_cyuosa_20180905.pdf

3. 入居希望者が不動産業者を訪問する際には「すでに入居したい賃貸住宅を決めている」

賃貸ニーズと併せて重要なデータがあります。それは、入居を決める際の不動産会社の店舗への訪問回数(平均1.6店舗/10年前は2.4店舗)と、物件見学の件数(平均2.9件/10年前は4.4件)が減少していることです(※4)。これは、入居希望者が不動産業者を訪問する際には「すでに入居したい賃貸住宅を決めている」という実態があるからです。入居者は、インターネットの賃貸住宅の掲載サイトで、自分が希望する条件で物件を検索し、絞り込んで決めています。この過程で、入居者が内覧をせずに物件を絞り込むうえで重要視されてきているのが、室内の「動画」です。ニーズの高い動画は、「部屋の中を実際に移動し、動線がわかる動画」「リビング、各居室全体を映した動画」「キッチンや水回りの設備を実際に稼働させている動画」の順序でした。これもまた忙しい世帯が、不動産会社の開店時間に束縛されずに、自分の都合のよい時間帯に行動したいというニーズによるものと考えます。これから土地活用や賃貸経営を考えている方は、こうした情報を参考にしたり、住宅展示場にあるハウスメーカーから最新のトレンド情報、実例などの情報収集を行い長期的な経営計画を検討するとよいでしょう。

【参考】

図表⑥ :内見動画で希望する内容

出典:公益財団東日本不動産流通機構の首都圏賃貸取引動向による

筆者:安食 正秀 (相続アドバイザー協議会R認定会員 上級アドバイザー)

1963年東京生まれ、立教大学経済学部卒。
2006年7月、株式会社アセット・アドバイザーを設立。財産を次世代に承継することを最優先に、顧客の不動産の全体像を把握し、様々な視点から不動産の相続対策の立案、問題解決および実務支援を行う。夕刊フジで「激変!相続税に備える」を連載。
2016年1月千葉テレビに出演。首都圏を中心にセミナーや執筆など人気講師として活躍中。

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